世界に誇る日本の職人技が生み出す伝統工芸品。当ギャラリーはそれを紹介する企画として、平成7年4月にスタートしました。以来20年間、『日本の職人芸』『日本の生活』『日本の伝統』というテーマで展開し、単なる工芸品の展示ではなく、ショーウィンドー全体をデザイン・演出することにより、季節を感じていただけるものをご提供してきました。
今回は20周年記念展示と称して、展示品は千葉県に所縁のある作品にフォーカスしました。
伝統工芸品を守り、進化させている職人やアーティストの作品の展示を通して、地元千葉の誇りや文化を改めて認識していただければ幸いに存じます。
さらに設置モニターでは、過去の展示を放映しています。受賞作品や特別企画展なども含め、ディスプレイ・デザインに懐かしさを覚える方もいらっしゃることでしょう。
漁師の晴れ着の萬祝半天。萬祝とは元々は大漁祝いの意味で、それが次第に祝いの時に揃って着る祝い着(主に長半天)を指すようになりました。藍色の地に漁業の様子や縁起物を鮮やかに染め抜いたもので、江戸時代の房総半島が発祥と言われ、全国の沿岸部に広まっていきました。千葉県鴨川市近辺では大漁旗などと一緒に手描きで製作されています。展示品は本店ショーウィンドーギャラリーの20周年を記念し、萬祝着の染色技法を継承し、この道一筋に15歳から製作されている角田光宏(つのだみつひろ)氏に特別に製作していただきました。
だるまや招き猫など招福人形の製造をきっかけに江戸時代から発展してきた張り子。千葉では明治の末期からの伝統を受け継ぐ佐原市の張子が有名で、佐原張子「餅つきうさぎ」は年賀切手に登場したこともあります。佐原張子は木型で作った型に和紙を重ね張りして成形し、ニカワと貝殻の粉を混ぜた液体を塗り、乾燥させた後に色を付けて作ります。紙製ならではの凹凸のある表面に鮮やかな絵の具が見せる表情は温かみがあり、展示品の動物たちの表情はユーモラスで、元気と笑顔を届けてくれます。作者は香取市の鎌田芳朗氏。水郷の佐原で張子細工一筋60年の職人です。
和菓子の木型で和紙を型取ったアート作品「記憶紙」。江戸時代から受け継がれてきた木型は、おめでたいもの、季節のものといった題材が多く見られます。その木型に白い手漉きの和紙をあて、長い年月を経た木型の持つ記憶ごと写し取る、ということから「記憶紙」と命名されています。展示品は、佐倉市にアトリエを構える永田哲也(ながたてつや)氏が、特別に製作したものです。テーマは、「千葉の海の恵み」。三方を海に囲まれた千葉の豊かな海の恵みと風光明媚を表現しています。永田氏は、全国各地の菓子匠の蔵を訪ね美しい型を探し出し、数々の作品を制作、発表しています。
日本には三大団扇と呼ばれるものがあります。京都の京団扇、香川の丸亀団扇、そして千葉の房州団扇です。それぞれ作り方に違いがあります。京団扇は柄と骨が別々に作られています。丸亀団扇は柄と骨が一体型で、柄の部分が平たく割られているのが特徴です。そして房州団扇は、柄と骨は一本の女竹から一体型で作られ、丈夫で半円の格子模様の窓が美しく、竹をそのまま生かした丸い柄を特徴としています。展示品は、経済産業大臣の指定を受けた千葉県の伝統的工芸品で、女性で唯一の房州うちわの伝統工芸士 、太田美津江氏が製作したものです。
上総(千葉県中部)には、男の子が生まれるとその子の健康と出世を祝って、端午の節句に凧を揚げるという風習がありました。上総凧には「角凧」と「袖凧(長南トンビともいう)」があり、「袖凧」は山側の地域で揚げられ、大工の印半纏(しるしばんてん)をヒントにしたのが始まりとされています。袖が四角で着物のような独特な形を持ち、大きなウナリをつけ、紙尾のないのが特徴です。展示品の袖凧は、京葉銀行本店ショーウィンドー20周年を祝って、市原市在住の金谷政司(かなやせいじ)氏に製作していただいたものです。千葉県伝統的工芸品に選定されている金谷氏の凧 。紅緋色(べにひいろ)と空の青は見事なコントラストを生み出します。
真朱焼きは大正時代に陶芸家濱田敬山氏により市川市鬼越(おにごえ)で開発された独特のもので、鬼越真朱焼と呼ばれます。展示品は日本で唯一の鬼越真朱焼の伝統を守り続け、千葉県伝統工芸品にも指定されている鎌ケ谷市の三橋窯業製の花瓶です。二代目敬山(故三橋英作)作で、全日本中小企業輸出見本市において、輸出優秀商品と選定され平成9年2月に皇室献上しています。真朱とはややくすんだ深みのある朱色のことで、万葉集ではこの色を「まそほ」と呼んでいます。現在は燃えるような真紅が特徴の焼き物になっています。