『夏の空』/濃藍色
青い空に白い入道雲…夏を象徴する景色ですが、夜になり、暗くなった夏の夜空いっぱいに打ち上げられた繊細で煌びやかな花火も、夏の代名詞のひとつです。
元来、浴衣は入浴後に体の水分をふき取るものでしかありませんでした。 浴衣が町人のオシャレ着となったのは、天保の改革の奢侈(しゃし)禁止令により、絹や色糸が禁止されたことがきっかけです。 木綿の藍染めだけで、どれだけの粋なものを作れるか、職人技を競わせたのです。 展示品は高級綿の綿紅梅を濃藍色に染上げた浴衣の反物です。 染元は高常で江戸時代から続く伝統的な浴衣の染色技法、長板中形(ながいたちゅうがた)染めで染色から乾燥まで全て手作業で行われます。
浴衣に濃藍色が重用されるのは、酷暑の日本らしい、夕刻からの涼しさの演出といわれています。
『風涼し』/虹の色
音色で涼しさを演出する風鈴。風鈴が涼しげな美しい音色を生み出すのは、その風に当たるとちょうど涼しく感じる程度のそよ風です。特に夏は暑い午後に吹き、風鈴が鳴る「風涼し」は暑さの緩和の一助となります。
日本各地で金属、陶器、ガラスなど、様々な材質で作られている風鈴。夏になると家の軒などに取り付けられ、風が吹くと音色は、聞く者を涼しげな気分にさせます。
展示品は 千葉県九十九里にあるスガハラ工芸ガラスの虹色風鈴です。まるでシャボン玉が浮かんでいる様に見え、窓辺につるすと、優しい七色の「虹色」が現れます。
「風涼し」という言葉の様に、風鈴は涼やかな音と風を一緒に届けてくれる夏の風物詩です。
『夏の便り』/褐色
畳や縁側に座り、夏のおとずれを知らせる手紙をゆっくり読んだり、書いたりすることは、日本の残したい伝統的光景です。夏の便りには、相手とのさりげなく温もりのある交流が感じられます。
江戸時代から今日にいたるまで二百年の歴史を持つ箱根寄木細工。展示品は無垢作りで、木材の豊かな色彩と木目を活かした葉書入れです。
無垢作りとは厚みのある種寄木を板状に加工して、そのまま製品の形を作る工法です。機械作りとは異なり、手作りでしか味わえない温かい木のぬくもりがあります。現代はインターネットが普及し、葉書や手紙を書く事もめっきり減ってしまいました。
夏休みに縁側に座り、「夏の便り」である暑中見舞いを読んだり、書いたりする光景は、日本の残したい伝統的光景です。
『とうろう流し』/生成色
小さなとうろうに火を点じて海や河川に流す伝統行事。透過光に優しく輝く生成色の和紙によって、人の心を穏やかにし、ゆっくりとした時間を感じる事ができるでしょう。
「とうろう流し」はお盆の始まりに迎えた先祖を送り出すために灯籠等を海や河川に流す伝統行事です。 展示品は、2000年6月に、国指定重要無形文化財<人間国宝>に認定された九代目 岩野市兵衛氏の作品で、越前和紙を使用した灯籠です。人間国宝であった先代岩野市兵衛氏より手漉(てす)き和紙古来の技法を受け継ぎ、木材パルプなどを使用しない100%楮(こうぞ)だけを使用した生漉(きす)き奉書一筋に専念してきました。 特に奉書は、高い芸術性と、二百回から三百回もの摺りに耐える比類無い強靱(きょうじん)さから、国内外の著名な版画作家に愛用されています。
『蝉しぐれ』/白竹の色
時雨の降る音にたとえて、たくさんの蝉の賑やかな鳴き声を蝉しぐれといいます。この声を聴くと、夏休み中の子どもたちの元気な声も聞こえてきそうです。
蝉籠は白竹で編まれた花を入れる籠です。 その形が蝉に似ている事から、蝉籠と呼ばれました。 白竹とは真竹や孟宗竹を油抜きしたのち直射日光に晒して乾燥させたものです。 見た目はとても簡素ですが、簡素な姿であるからこそ、何にでも合い、また、素直に美しさが現れる白竹。 白竹は年月を経るほどに味わい深い飴色に変化してゆきます。
梅雨明けを知らせるように蝉が一斉に鳴く様を、蝉しぐれが降ると表現します。暑い夏に涼しげな花を、蝉籠に飾る様は、夏の暑い日々の中でとても涼しげです。