『 花 咲 く 春 』/桜の色
春は花の季節。暖かさの到来とともに、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)、花々は咲き乱れます。
「花畑」「花園」「花壇」など咲き誇る様を表す言葉も多く、また桜に関しても「花見」「満開」「桜吹雪」「桜前線」と、現代生活にも深く根付いて使われています。
強い輝きを放った金色をバックに描かれた桜が、上品でありながらも強い印象を残す展示品は、有田焼の窯元である金龍窯(きんりゅうがま)の伝統工芸士・江口天童(てんどう)氏作の金彩(きんだみ)桜花瓶です。
1978年、古赤絵窯(こあえがま)として創業した金龍窯は、1983年に窯名を金龍窯に変更して以来、現在に至るまで、有田焼の大物美術品業界において、トップシェアを確立している窯元です。高い絵付け技術と卓越したセンスを備えた金龍窯の絵付師たち。今回の展示品のように、手描きにこだわった温かみのある作品が特徴です。
『 山 笑 う 』/もえぎの色
春の山は冬の鎮まった印象から一変し、木々は芽吹き、草は萌え出し、瑞々しい命で満たされます。
「山笑う」とは、春の山のおおらかで明るい感じを表現した春の季語です。
和州吉野から桜の苗木が移植され、江戸庶民の観桜(かんおう)の名所として、飛鳥山や隅田堤などとともに花見客で賑わいをみせた御殿山〔品川区北品川付近〕。展示品の浮世絵は葛飾北斎作『冨嶽(ふがく)三十六景』より『東海道品川御殿山(とうかいどうしながわごてんやま)ノ不二』。彫師(ほりし)は菅香世子、摺師(すりし)は鉄井孝之、版元は東京伝統木版画工芸協同組合です。江戸寛文年間(1661-73)頃の花見の様子を描いたもので、満開の桜とともに、波一つない江戸湾や木々の間からのぞく富士の姿など、雄大かつのどかで華やいだ花見の雰囲気が感じられる作品です。
『 春 を 奏 で る 』/若緑の色
春の穏やかさを感じさせる代表曲が宮城道雄作「春の海」。
“こと”で弾かれるその音色と旋律が作り出す世界は、まさに、“春を奏でる”という言葉がふさわしいです。
弦を弾いて音を出す日本の伝統的な撥弦(はつげん)楽器である「こと」。現在「こと」と呼ばれる楽器は、琴(きん)、箏(そう)、和琴(わごん)、一絃琴(いちげんきん) ( 須磨琴 (すまごと))、二絃琴 (にげんきん)( 八雲琴 (やくもごと))などがあります。
「琴」と「箏」は混用されていますが、 正確には別物で、「琴」は弦を押さえる場所で音程を決めますが(和琴は柱を使用)、「箏」では可動式の支柱で弦の音程を調節します。
現在広く使用されているのは箏の方で、箏の別名として琴と呼ぶようになったのは江戸時代以降です。
『 甘 い 春 』/餡子の色
ハレの日が多い春には、「桜餅」「鶯餅(うぐいすもち)」「蓬餅(よもぎもち)」「苺大福」「ひなあられ」「花見団子」「引千切(ひちぎり)」など、所縁の和菓子が多く、日本ならではの甘味の季節にもなっています。
クロモジの木から一本一本丹念に削りだされる君津市久留里の伝統工芸、黒文字楊枝。千葉県指定伝統的工芸品でもあり、久留里城の別名をとり『雨城楊枝』と呼ばれます。巧みな細工と品の良さから和菓子を食べる粋な道具として知られています。かつての上総(かずさ)楊枝が、明治後半に森家によって『雨城楊枝』に生まれ変わりました。展示品は森隆夫氏が営む雨城楊枝工房の『ふさ楊枝』。片方の先端をなめし叩いて房状にしたもので、昔は歯ブラシの代わりとして使われました。
『 風 光 る 』/鯉のぼりの色
5月は心地よい風を感じる季節でもあります。花や緑の香りに満ちた風が、陽光降り注ぐ五月晴れの空の中を、鯉のぼりをはためかす。
それはまさに“風光る”日本の伝統的な光景です。
手漉き(てすき)和紙・花合羽(はながっぱ)〔油紙〕を使用した展示品は河合俊和氏作の『のぼり 鯉』。享保の改革の際に 「布は贅沢故、紙を使用せよ」 とされてから和紙の鯉のぼりが作られ、今日まで受け継がれてきたものです。子どもの健やかな成長を願って中国の故事にならい、のぼり鯉と名付けられました。展示品は岐阜の小原屋製で部屋の中に飾って楽しむもの。 和紙の「のぼり鯉」は戦後まで作られ続けましたが、徐々に姿を消し今ではこの小原屋のみとなり、河合氏が13代目となります。