橙を表す色は、絵画や工芸品、伝統芸能や文学の中に、多く生かされそれぞれに趣があります。
この期では、日本ならではの5種類の「橙」をご紹介します。
橙色
果実ダイダイの皮の色です。橙色系統の総称としても使われています。この色は、果実とともに中国から輸入され、一般的な色名として使われるようになりました。
あざやかな黄赤で、ミカン科に属するダイダイの熟した果実のような黄色みを帯びた薄い赤のことをさします。黄色と赤の中間の色ともいわれ、英語ではオレンジ色とよばれます。橙は実を落とさずに年を越すところから「代々」とも称され、縁起のよい果実として知られています。男の子の厄よけ、健康祈願のお祝いの行事として定着している端午の節句には、江戸時代より魔除け、災厄除けとして鎧兜が飾られるようになりました。
柿色
照柿ともいわれる色です。柿の果実のようなやや赤みの強い橙色をこう呼びます。江戸時代、ベンガラ(赤色の顔料)で染め付けをした柿右衛門様式といわれる陶磁器が「柿色」を代表する芸術作品として知られています。
つよい黄赤、やや赤みの強い橙色のことをさします。カキノキ科カキの熟した実の色をさす比較的新しい色名です。歌舞伎の世界では、柿渋などで染めた赤茶を柿色と呼び、かつては江戸三座のみが掲げることが出来た定式幕に使われる黒・柿色・萌黄の三色の一つです。江戸歌舞伎の宗家、市川団十郎家に代々伝わる色で「団十郎茶」とも呼ばれています。
人参色
まさに人参の根のようなあざやかな橙色をさします。ビタミンカラーとも呼ばれるこの色は、ポジティブな印象を受ける色です。明るい気持ちになれるため、さまざまなシーンで使われています。
人参のようなあざやかな橙色を人参色と呼びます。展示品は、穴のあいた色ガラスの玉に、さまざまな模様をつけた物で、古代より装飾品として作られてきたとんぼ玉です。とんぼ玉を製作した森谷糸さんの作品は、千葉県伝統的工芸品に指定されています。日本の時代色豊かな着物の模様や、日本の色など、日本の文化を伝えるものを目指した森谷さんの作品は、飾っておくだけではなく、身につけて楽しめる作品です。
蜜柑色
一般的に親しまれている蜜柑色は、温州みかんの色です。橙色と似ていますが、比べると少し赤みが少なく黄色みが強い色を蜜柑色としています。
ミカンの果皮のような黄赤のことを蜜柑色と呼びます。橙色よりも少し赤みが少なく、黄色みが強いイメージです。展示品は、300年の歴史を持つ津軽こぎん刺しの鍋敷きです。津軽こぎん刺しは、手織りした麻布の荒い織り目に、布地の補強と保温のために木綿の糸でひと針ずつ刺したものが始まりです。模様は、くるみ殻、ネコの目など身近な動植物をテーマにしたものや竹節(たけふ)、市松といった直線模様などが典型的です。
金茶色
金色がかった茶色に用いられることがありますが、古くは明るい赤みの茶色をこう呼んでいました。着物の地色、風呂敷、袱紗(ふくさ)などに好まれる色で、江戸時代中期、昭和初期に流行していたと言われています。
濃い赤みの黄、金色がかった明るい茶色のことで、別名山吹茶とも呼ばれています。山吹色に近く、特に江戸時代中期の文献によく登場し、武家の女性から町家の子女まで、幅広い人びとに好まれる染色として流行したとされています。和服、和装小物、風呂敷、作務衣(さむえ)などに用いられるほか、洋服にも合う色です。