新春にはさまざまな行事が行われます。なかでも書初めは代表的な行事です。
「わんぱくや先づ掌に筆始」小林一茶は子どもたちが書初めをする前に、掌に試し書きをしているのを見てこの句を詠みました。子どもを見つめる一茶の優しいまなざしと愛に溢れた俳句です。
日本の伝統文化にはさまざまな道具が使われています。例えば書初めならば筆ですが、それらは道具として“書”の伝統文化を支えています。
今回はそんな日本の独自性が色濃く感じられる道具を集めました。穂先が羊毛や馬毛ではなく藁や竹で出来た筆、明治時代に風鈴職人によって開発されたガラスペン、奈良時代からの歴史を誇る、書物や邦楽の譜面を見るための見台。おなじく奈良時代から伝わる技法「木象嵌」で制作された箱、江戸時代に庶民に普及していた銀秤。伝統文化を支えてきた個性的な道具たちに、今年の年初は思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
木象嵌とは、木の地版に異なる色の木を埋め込み絵画や図柄を作成する技法のことです。
木象嵌の技法は、奈良時代から使われ当時はノミや彫刻刀を使用して色の異なる木を埋め込んでいましたが、明治時代の中期に糸鋸が輸入されると、象嵌の技法も進歩しさまざまなスタイルの作品が誕生しました。
展示されている作品は、最も難しいとされる「一枚引き」という技法を用いて作られた千葉県伝統的工芸品に指定されている「楽堂象嵌(がくどうぞうがん)」です。
明治35年に日本の風鈴職人によって開発され、世界中の人達に愛用されてきたガラスペン。
当時はペン先のみにガラスを用い、軸には竹などを使用していました。毛細管現象を利用して作られるガラスペンは、溝が刻まれたペン先にインクがたまるという仕組みです。
繊細で美しくさらに丈夫でペン先が摩耗しないことから、作家、画家、学者など多くの人達に愛用されています。
近年、そのデザイン性の高さから再び注目されています。
見台(けんだい)とは、書物や謡曲、浄瑠璃、長唄などの邦楽の譜面、台本を置いて読んだり見たりするために作られた台のことで、書見台を略してこう呼びます。書見台の歴史は古く奈良時代に遡り、当時は巻物を読むための台として使われていました。現代の見台の形状(斜めに書物を置き高さの調節が可能)となったのは、室町時代とも言われています。
現在では、書物を置くための台を書見台、邦楽などで譜面を置くために使用する物を見台と呼び分けている場合が多いようです。また、上方落語での見台は、音を出す道具の一つとして使われています。
軸の先に毛の束をつけた筆は、中国を発祥の地とし、飛鳥時代に遣唐使が持ち帰り日本に伝来しました。以来、日本人に馴染みの深い道具の一つとなっています。
通常、筆先に用いられている獣毛は、馬、狸、羊などで、その固さによって用途が分けられています。
ここで展示している筆は、特殊筆と呼ばれる物で、ウサギ、鶏(にわとり)、藁(わら)、竹などを使用して作られています。
こういった、特殊筆は独特の変化に富んだ線を描けるため、前衛(ぜんえい)書道家や画家などに愛用されています。
江戸時代、物の重さのはかり方は主に2種類ありました。一つは天秤ではかる方法で、これは主に武士や大名のための道具でした。もう一つが銀秤(ぎんばかり)と呼ばれる棒秤で広く庶民に使われていました。
専用のケースの中に、皿とおもりと棹が収納されている銀秤は、少量の物をはかるのに便利なことから、医者や薬屋が薬をはかるために使用していました。皿の上に薬などを載せ、棒にぶら下げたおもりを支点から近づけたり遠ざけたりして、棒の表面に刻まれた重量の目盛りをみて重さをはかります。
当時の重さの単位は「匁(もんめ)」が使用され、この銀秤での限度は100匁(375g)でした。