木枯らしが吹き、雪もちらつくと、寒さもいよいよ本番を迎えます。そんな季節はあわてず騒がず、置き火がほどよい加減になった囲炉裏端(いろりばた)で、ほっこりと暖を取りたくなります。
家族揃って火鉢でことことと煮える土鍋(どなべ)を囲むひとときは、身も心も安らぐ寛ぎの時間。これから迎える寒く閉じこもりがちな冬、そんな冬を好んだという与謝蕪村(よさぶそん)は炭火は灰に埋まっていても、いつ煮えるか分からない鍋を、いつか煮えるでしょうと慌てずに処するという心持ちを歌に表しました。
今回は寒い季節でも温もりが感じられる匠たちの逸品を集めています。寒い季節の必需品土鍋、くつろぎの一服のための煙草盆(たばこぼん)、水も漏らさぬ伝統の手桶、木のぬくもりと現代デザインが融合した木製照明、雪にも負けない骨太の山形和傘。寒さを忘我(ぼうが)してくれる匠の技とぬくもりに触れて、これからの季節を快適に過ごしてみてはいかがでしょうか。
秋から冬の食卓に欠かせない土鍋(どなべ)は、直火にかけることのできる数少ない日本の陶磁器(とうじき)です。火のあたりが柔らかいため長時間煮込む料理などに向き、また保温性が高いことから、鍋料理やお粥などを美味しく作ることが出来ます。特に、伊賀の土を使った土鍋は、熱に強いことで知られています。
展示品の土鍋は、その一つ一つを職人が手作りし、伊賀の土だけを使う土楽窯(どらくがま)のもので、取手(とって)の部分が鮎の形になっているユニークなデザインです。手作りされた土鍋は、使うごとに、月日を重ねるごとに、その表情を変えていき、食卓を楽しませてくれます。
煙草盆(たばこぼん)は、火入れ(ひいれ)、灰吹き(はいふき)、煙草入れ、煙管(きせる)、香箸(こうばし)といった喫煙具一式を納めておく道具です。江戸時代では、お茶席に必要な道具の一つとして使われていました。
江戸時代後期になると一般家庭にも常備され、来客時には、お茶よりも先にこの煙草盆を出し「一服」を勧めることがもてなしとされていました。煙草盆の形はさまざまで、塗蒔絵(ぬりまきえ)や飾り金具、透かし彫りなどの手の込んだ細工物は大名が好み、茶人の好みは桐や桑などの木で作られた簡素なものでした。展示品は、江戸時代後期頃の伊万里焼のものです。
寒さを感じてくると恋しくなるのがお湯の温もりです。日本の三大銘木の一つである木曽ひのきは、樹齢150~250年の天然木を指します。古くから日本の代表的な建物に使用される貴重な森林資源でもある木曽ひのきは、特徴として、防腐、防水、防虫効果があります。また、ひのきに含まれるフィトンチッドという成分には精神安定や疲労回復効果があることで知られています。
この手桶(ておけ)は、昔ながらの手間のかかる手で割った木片をかんなで削り、美しく丸く仕上げる木曽の職人の手によって作られたものです。
千葉県佐倉市に工房を構える造形家 丹羽望(にわのぞみ)さんによる独創的な照明器具です。複数の穴が開くベースに、様々な長さの木製スティックを挿しこんだ個性的な照明です。このランダムな長さのスティックの隙間から漏れてくる明かりと影は空間を幻想的に演出します。
「完結してしまったものより、どこかに破綻があるものの方が魅力的。不完全な形を素材の力も借りて完成度を高め、不完全なまま存在できる。」と語る作者のポリシーを具現化している作品です。もちろん1点1点手作りで製作しています。