暑い日中を過ごした後、日も暮れ、気温が下がる夏の夜はゆっくりと過ごし、一日の疲れを癒やしたいものです。
今回の展示品は、夏の宵をゆるりと楽しむ食器を集めました。ご飯をおいしく保つ飯櫃(いいびつ)、お菓子を盛る高杯(たかつき)、お酒を楽しむための酒器(しゅき)、盃を洗う盃洗(はいせん)、現代風ガラスの椀。
今宵、月が顔を見せたら気分に合った器を手に、しばし時を忘れて夏の月夜を楽しみたいものです。
炊いたご飯を移し入れておく飯櫃(いいびつ)。木がご飯の余分な水分を吸い取り、ちょうどいい具合に調えてくれます。また、木の香りがお米をつつみこみ、柔らかな味を作り出します。展示品は木の加工伝統技術のひとつ、曲げわっぱの飯櫃です。木を薄く切った後、湯で煮て柔らかくし、型に合わせ円形に曲げます。その後、側面のつなぎ目を接着。底部を入れ込み、仕上げは白木のまま、または漆を塗ります。木の板が職人の技によって月にも似た美しい弧を描いています。
展示してある椀(わん)はガラス製で、千葉県九十九里町の工房で作られた器です。ひとつひとつ全てが職人たちの手作りで、色、形が微妙に異なります。「ガラスは生きている。会話しながら作る。」職人たちは、そう言いながら器を作っているそうです。椀といえば木製を思い浮かべます。このガラス製の椀は、日本の伝統的な形と、新しい素材を用いた斬新なデザインです。今年の夏の暑い夜にガラスの椀で涼(すず)やかな食卓の演出はいかがでしょうか。
酒宴の席で、一つの盃(さかずき)を使ってお酒を飲み交わす際、飲んだ後、その盃を洗ってから渡すための器が盃洗(はいせん)です。膳の下や脇に置かれ、盃洗には水が入れてあります。共に同じ盃で酒を交わすことで親睦を深めるという慣習は意外にも江戸時代から始まったようです。盃洗もその頃誕生しました。展示品のように漆(うるし)の台に器が入っているものや、器自体が漆器のもの、茶碗のように陶器で出来たものなど、いろいろな素材で作られたものがあります。
日本にはお酒を楽しむための様々な種類の器があります。例えば光を通した姿がとても涼しげな切子ガラスの徳利(とっくり)。冬に熱燗(あつかん)を楽しむための厚手の陶製のものや、持ち手のついたちろりと呼ばれる金属製のものもあります。展示品は日本の道具にとてもよく使われる素材、竹で作られたものです。軽いけれども割れない。そして木の優しさを手に感じながらお酒を楽しむことができる酒器。季節の移り変わりに合わせて器も変える日本の粋なこだわりです。
足のついた皿、または椀状の食器を高杯(たかつき)と呼びます。弥生時代に大陸から日本へ伝えられた形と言われています。主に祭祀用(さいしよう)として作られ、神社では神様にお供えする食べものを盛る器として現在も用いられています。その後、お茶席では干菓子(ひがし)用菓子器として用いられ、一般的な食器としても使われるようになりました。材質も伝統的な漆器(しっき)から、陶器、ガラスと様々なものが登場し、私たちの生活の中に活き続けています。