外の明るい日差しに心は軽くなり、咲き始めた花たちがお洒落して外へ出かけようと誘います。
紅花のわずか1%に含まれているという赤の色素を抽出した日本の紅(べに)。
職人の卓越した技によってすらりと延ばされた竹の線が美しい和傘。小さな布をひとつずつ折りたたんで作り上げられた花のつまみ簪(かんざし)。かすかな香りのベールで視覚とは違った印象の匂い袋。今日のお洒落を考えながらのぞく手鏡。
ひと筆のお洒落を加えた日には、何か少し良いことがありそうな気分。
明日のお出かけ前にいつもより少しだけお洒落をしてみませんか。
太古の鏡は銅製で、祭祀的(さいしてき)な意味が強いものでした。姿を映し出す不思議な現象に神秘性を感じ、ご神体として祀(まつ)られたり、閻魔(えんま)様(さま)が持つ道具として描かれたりしています。その名残を「鏡餅」といった縁起物の名称の一部に見ることができます。明治時代に現在のガラス製の鏡が作られるようになりました。
展示品は職人が金箔(きんぱく)を一枚ずつ手で張り込んで仕上げた手鏡。お化粧をするひと時に繊細な彩りを添える美しい作品です。
小さな羽二重(はぶたえ)の布をピンセットでつまんで一枚の花びらを作り、合体させて花を作り上げる。根気と手先の細やかな動きが要求されるつまみ簪(かんざし)作り。全国でも15人ほどに減ってしまったつまみ簪職人。その中の一人が千葉県市川市にいらっしゃいます。
七五三、成人式などに着物で正装した女性の髪に付けられるつまみ簪は、その姿をいっそう華やかなものとします。花びら一枚ずつに心が込められた伝統の技が咲かせた温かみある花です。
紅花は、その名の通り美しい紅色の色素を持っています。その色素の溶液を抽出して乾燥させたものが「紅(べに)」です。その純度の高い赤い色は、その赤さ故に光の中の赤を吸収してしまうため、目には逆の緑色に見えます。その神秘的な緑色を、江戸時代には玉虫色と称(たた)えていました。
紅は水を含ませた筆に取ると赤く発色し、何度も唇に塗り重ねると玉虫色に輝きます。玉虫色の唇は、美しさと裕福さの象徴として女性たちの憧れの化粧でした。
美しい布で天然の香料を包んだ匂い袋。八世紀中頃に建てられた正倉院(しょうそういん)で、納められた宝物を虫から守るために香料を詰めた大型の布袋、衣被(えび)香(こう)が見つかっています。これが匂い袋の原形と言われています。その後、身につけてほのかな香りを漂わせたり、衣服と一緒に入れておき、移り香を楽しむという使い方がされています。
時によっては視覚よりも印象的な香り。香料を調合して、自分だけの匂い袋を作るというのも風情があります。
傘が雨避(よ)けとして一般に広く使われるようになったのは江戸時代中期以降と言われています。それまで傘は貴族の権威を象徴するための形式的な飾りであり、実際の雨対策には身体にまとう菅笠(すげがさ)や蓑(みの)が使われていました。
紙の表に油を塗ったものは雨傘に。粋な絵柄の紙や絹を貼り上げた傘は日傘や舞踊用として使われています。
背筋を伸ばして和傘を差す姿は、竹のように凛(りん)とした美しさがあります。