寒い季節ともなると、家で過ごす時間も長くなります。
季節の草花を花入(はないれ)に飾り、料理やお酒のもてなしには暖かい手触りの漆器の片口(かたくち)を。部屋の一角に特別な空間を演出する風呂先屏風(ふろさきびょうぶ)。暖かな光を作り出す行灯(あんどん)。癒やしの香を香炉(こうろ)で。
季節のひとひらと少しの遊び心で安らぎと温かみ溢れる秋・冬の部屋へと変わります。
鮮やかな赤い色が特徴の千葉県で創作された真朱焼(しんしゅやき)の花入(はないれ)です。昭和初期に鎌ヶ谷市の陶芸家濱田(はまだ)敬山(けいざん)氏が古代中国の鶏血焼(けいけつやき)独特の鮮やかな赤色の再現に成功し真朱焼として創業。最近までその技術は鎌ヶ谷市の陶芸作家によって受け継がれていました。
今回ご紹介している百人一首は初霜と菊の白さの美しさを並べ歌っています。季節の色を発見した朝には花などを手折り、少しだけ季節のおすそわけを部屋に持ち込んでみるのもよいものです。
粋な絵柄の陶器の徳利(とっくり)、涼やかな錫(すず)製のちろり、日本の酒器には素材によって違った美しさがあります。秋から冬にかけての肌寒い季節には漆器が手に心地よい温かさを伝えます。片方にだけ注ぎ口がある片口(かたくち)。お酒や蕎麦湯(そばゆ)を入れたり、時には料理を盛るなど使い道はさまざま。食卓でのおもてなしに活躍する器です。展示品は根来(ねごろ)塗(ぬり)の片口です。下地に黒漆(くろうるし)を塗り、その上から朱色の漆を塗りつけるため、下からうっすらと見え隠れする黒色が特徴です。
風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)は、もともと茶道具のひとつで、主人が茶をたてる道具を置く道具畳(どうぐだたみ)の脇にたてて使います。屏風をたてることにより、空間を引き締め、お手前をする特別な場所であることを表しています。
風炉(ふろ)自体は春から秋にかけて用いられる釜を指しますが、この風炉先屏風はお茶の世界だけではなく、室内の小さな空間づくりにも四季を通じて使われるようになりました。屏風の前にその季節の扇子や花などを飾ります。
火を灯した行灯(あんどん)は赤みを帯び、紙を透(とお)した柔らかな光は安らぎを与えます。またその光は物の陰影を濃く映し出すため部屋の広がりをより強く感じさせます。寛ぎの部屋の照明に蛍光灯ではなく白熱灯を用いるのは行灯と同様の効果があるからです。
展示品は和傘の骨の技を活かして作られた現代風の行灯です。中心から何本もの骨が和傘のように張り出し円形を作っています。収納時は、傘のように細く折りたたむことができます。
仏教伝来以来、日本文化に深く長く関わってきた香りの世界。香木が高価であったため貴族だけの楽しみでしたが、江戸時代からは線香が作られるようになり一般庶民にもお香が広まりました。現在では心身への効能を研究するアロマセラピーもたいへん盛んです。
香りもおもてなしのひとつです。お客様をお迎えする際には、いらした時にお香を焚(た)くのではなく、いらっしゃる前に焚き終わり、残り香でお迎えするのも日本の情緒ある心遣いのひとつです。