竹のしなりを活かした竹刀(剣道)や薙刀(なぎなた)、さらに火を入れて竹の繊維を強めた矢(弓道)。強靭(きょうじん)な布の柔道着。名脇役の拍子木(ひょうしぎ)(相撲)は木の材質によって音色が変わります。いずれも伝統の技に支えられている道具です。伝統競技に使われる道具の職人の技を、展示品を通して触れていただければ幸いです。
土俵から澄み渡った音を発する拍子木を「柝(き)」と呼びます。呼出(よびだし)と呼ばれる役割の人がこの柝を3回打ちます。一番柝は取組開始30分前の合図。二番柝は15分前。そして三番柝は「土俵に入って下さい。」という意味があります。柝を打つ呼出、力士名を呼び上げる呼出、軍配を握る行司の3者の呼吸を合わせるために、この柝の音の間合いと響きはとても重要です。中でも大相撲で使われている柝は特別に桜の木が使われ、一段と素晴らしい音を放っています。
竹刀制作には真竹(まだけ)が主に使われています。真竹は根元の節間(ふしま)が短く、上に伸びるほど間が広くなり、厚みも差があることから剣先と柄の部分とのバランスが良くなり、最も適した素材と言われています。そして熟練した職人の手によって竹が割られ、油を抜き、形を整え、4枚の材料を1本に合わせて美しい竹刀へと仕上げられていきます。国内産の竹を使い、職人によって作られた竹刀は数少なくなってきましたが、最高の竹刀として高い評価を受けています。
日本の伝統的な技術「刺子(さしこ)」は合わせた布に細かな縫い目を入れていくことでとても丈夫にすることができます。その刺子が柔道着に用いられています。柔道着は技をかける上で非常に重要な役割を果たすため、体から何センチのゆとりでなければならないか、手首・足首などすべて細かいサイズ規定が設けられています。さらに洗濯によっての縮みも技を左右するため、メーカーによっては洗濯後のサイズ見本を試着用に提供しているところもあります。
弁慶が持っていたことでも知られる武器が薙刀です。長い柄に刃が取り付けられているので、海上での戦いや、騎馬兵(きばへい)に対して地上の歩兵が戦う時に有利な武器として使われていました。その後、鉄砲の登場で戦い方が変化し、戦場で薙刀を用いることは無くなり、主に女性の護身用武道として存続しています。
展示品は試合用薙刀で、柄は樫(かし)、刃部は竹を2枚重ねて作られています。竹は刃の反りを表現してゆるやかに曲げられています。
和弓(わきゅう)用の矢は竹と羽で作られています。しなりがあり、腰が強い竹を矢に仕上げるにはいくつもの工程を重ねていきますが、その中に火を入れる工程があります。竹に何度も火を入れて焦がすことにより、竹の繊維成分が強くなり、現代の新素材カーボングラファイトに似た強さと豊かなしなりを合わせ持つ状態になるのです。
展示品は千葉県の伝統的工芸品に指定され、その後日本キワニス文化賞を受賞された佐倉市在住の職人、鳥山眞さんの作品です。