春から夏に変わる頃、装いも素材や色合いがこれからの季節に合わせたものへと変わっていきます。竹かごと布を合わせた巾着、季節の花や風景を描き出したちりめんの風呂敷、麻や絽(ろ)といった涼(すず)やかな素材の半衿(はんえり)、爽やかで大胆な絵柄の羽織や伝統の技が光る浅葱色(あさぎいろ)の帯締。
季節の移ろいを感じたら、装いの一部に初夏の香りを取り入れて楽しむのも風情があるものです。
江戸時代に盛んに身につけられるようになった巾着。主に小銭入れやたばこ入れとして小さめの巾着が腰元につけられていました。
展示品は竹かご付きや、鮮やかな青色をした春から夏向けの手提げ巾着です。青色の巾着は駿河型染(するがかたぞめ)で染められたものです。昔から伝えられていた技が大正時代に一旦消えそうになりましたが、布染め職人たちが研究、復活へと尽力し、今では静岡県の伝統的工芸品として多くの職人たちによって受け継がれています。
「風呂敷」という言葉は江戸時代にできました。銭湯が流行した時、脱衣場に四角い布を敷き、その上で着替えたり、足をぬぐったり、入浴後の道具を包んだりしたことから、風呂で敷く布=風呂敷という名前が定着してきたといいます。
展示品は糸の撚(よ)りによって生み出されるシボ(布の凹凸)が特徴的な丹後ちりめんの風呂敷です。シボは、結んだり解(ほど)いたりすることが多い風呂敷のしわを目立ちにくくさせる効果があり、その姿を美しく保たせることができます。
襦袢(じゅばん)の衿が汚れないようにつけられている布が半衿です。衿元にちらりと見える小さな部分ではありますが、そこに着物姿の粋が光るとも言われています。男性用は黒や灰色など落ち着いた色が多いのですが、女性用は刺繍入り、友禅染め、最近ではビーズを散りばめたものも登場しています。
今回は透明感のある夏用の半衿をご紹介しています。五月下旬から着られる単衣(ひとえ)に合わせられる麻や絽(ろ)の半衿で、夏の訪れと涼(すず)やかな風を感じさせます。
戦場で鎧(よろい)の上に防寒着として着ていた胴服(どうふく)などが原型とされている羽織は男性用の衣装で、士族の直垂(ひたたれ)や裃(かみしも)といった正式な礼服と普段着との間の略式礼服でした。
明治以降になると身分を問わず、紋を入れた羽織と着物、そして袴(はかま)、いわゆる紋付袴(もんつきはかま)が男性の正式礼服として扱われるようになりました。また、その頃になるとおしゃれに敏感な花柳界(かりゅうかい)などの女性も羽織を着るようになりますが、女性の正式な礼服としては現在も用いられていません。
日本で古来より伝承されている組紐作りに独自の技をさらに加え、弾力のある、結んでも緩(ゆる)まない組紐を開発したのが千葉県の伝統的工芸品である下総組紐(しもうさくみひも)です。
一本の帯締を作るのに約五日間かかります。その日の湿度や気温によって、絹糸の張りが異なるため、絹糸を編む時の締める力を調整し、紐の仕上がりを一定に保ちます。この技術は現在、親から子へと受け継がれ、千葉県を代表する工芸品として作り続けられています。