江戸時代に描かれた浮世絵では、花が印象的な風景画や、花見をする美人画などがあり、当時の花を交えた暮らしぶりを垣間見ることができます。
料理を詰めた手提重箱(てさげじゅうばこ)、茶を入れるための野点籠(のだてかご)などを持って家の外へと花を求めて出かけることも楽しみのひとつです。家の中では籠や花瓶に花を生けて暮らしに季節の趣きを演出します。また、風情ある姿が美しい扇子は装飾用や実用品として幅広く活躍しています。
安藤広重の浮世絵を復刻した手摺(てず)り木版画です。部屋の中から窓越しにちらりと見える小さな梅が、春の訪れを印象的に表現しています。これらは安藤広重の晩年の作品で、江戸名所百景シリーズの中の二枚です。感性豊かにとらえられた四季折々の風景が独特の構図で描かれています。画家ゴッホも魅了され模写をしたことでも知られています。
展示品は当時の版木と同じものを現代の職人が彫りあげ、丁寧に手摺りしたものです。
外へ重箱を持っていけるように手提げがついている手提重箱です。重箱に加え、水筒や皿も組になった花見弁当と呼ばれる豪華なものもありますが、展示品は重箱が四段重ねになっているもので、日常でも使える機能的なものです。
重箱に料理を詰め、花見、芝居見物、寄合などに持参していました。今日では、より密封性の高い容器が持ち歩き用には重宝されていますが、正月など特別な日には漆の美しい重箱が今も愛され続けています。
屋外で抹茶がたてられるよう、野点用の道具が籠の中にまとめられています。小さめに茶筅(ちゃせん)、棗(なつめ)が作られており、茶杓(ちゃしゃく)は折りたたみができるように工夫されています。
昔は狩りや遠征に出かけた折も出先で茶を楽しんだようです。九州へ豊臣秀吉が遠征した折、千利休が林の中で松葉を使って湯を沸かし茶をたてたところ松葉の燃える香りがなんとも言えない趣きがあったといいます。その様子は「箱崎茶会」と称され、今も伝えられています。
籠に生けた花は季節の香りも一緒に運んできてくれます。
春を代表する花のひとつに菜の花があります。一面黄色に染まった大地は春の風景のひとつです。千葉県の県花でもある菜の花は、南房総を中心に千葉県内でも広く見ることができます。気候が温暖な南房総では早ければ二月頃から開花します。
また竹の産地としても千葉県は有名です。材料としての竹の生産のほか、籠、団扇(うちわ)など多種にわたる工芸品も作られています。
今回は三種類の扇子を展示しています。一番大きなものは「蝙蝠扇」と書いて「かわほりせん」と読ませる古典的な扇子です。平安時代に誕生した紙を使った最初の扇子で、骨が五本と少なめです。今は装飾用ですが、平安時代の時代劇などを気をつけて見ていると、この「かわほりせん」が使われていることがあります。中サイズの扇子は夏扇(なつせん)と呼ばれる実用を目的としたもので、小ぶりなものは茶道で使われる茶席扇(ちゃせきせん)で季節に合わせて絵柄を選びます。