今年度は、優しく時には厳しい自然と上手に付き合いながら日々の暮らしを楽しみ、四季の移ろいを愛で、慈(いつく)しんできた日本の文化をご覧いただきます。
日本では風を上手に取り込み、暑さを和らげています。さらに音や動きで風の姿を描き出し、暮らしを風情豊かなものにしています。展示品を通じて風の姿を見つけていただければ幸いです。
部屋の仕切りや、店の看板として入口に飾られている暖簾ですが、その使い方によって素材が異なります。
豪華な絹に美しい染めを施した花嫁暖簾、店の中へ日差しが入らないように張られた日よけ暖簾は丈夫な厚手の綿でできています。そして夏用の暖簾は特に風通しが良くもっとも涼しい繊維とされている麻で作られています。風を受けて軽やかに揺れる麻暖簾の向こう側にうっすらと見える景色はとても涼しげです。
千葉県の女竹(めだけ)は節間が長く、柔軟性に富み、うちわに最適の素材です。そのため江戸で作られていた江戸うちわの骨となる竹の生産地として有名でした。
しかし関東大震災によって江戸を焼け出された職人たちが材料の生産地である千葉県へ移住してきたことから材料生産から製品化まで一貫製造するうちわの名産地となりました。
丸みを帯びた形の房州うちわが紡ぎだす風はどこか柔らかく感じられます。
風鈴は微(かす)かな風も美しい音色に変えて私たちへ届けてくれます。
ガラスで作られた江戸風鈴は、その見栄えも涼しげで、古くから愛され続けていますが、今回は鋳物(いもの)の技術を活かして作られた真ちゅう製の風鈴をご紹介しています。鋳型で形作られた真ちゅうを職人がろくろで丁寧に磨きあげ、さらに極細のラインを表面に施して仕上げています。金属でできているこの風鈴は、ガラスとはひと味違った美しい澄みきった音を奏でます。
強い日差しが照りつける日の外出に帽子は欠かせません。日差しを遮(さえぎ)り暑さを和らげるだけでなく、最近は環境破壊に伴う強い紫外線を防ぐためにも帽子の効用は再び注目を集めています。
麦わらをミシンで縫い上げた風通しの良い麦わら帽子が暑い季節の定番でした。しかし最近では繊細なデザインや手触りが好まれ、パナマ(トキヤ草)を使い細かく編み上げた帽子も日本の職人たちの手によって数多く作られるようになりました。
千葉県銚子市で作られているすだれは、国内産の竹素材にこだわり、ひとつひとつ手間をかけて編みあげられています。現在では、千葉県の伝統的工芸品に指定されています。今回の展示品は特に2色の竹素材を合わせて編み上げ、節目を使って模様を描き出しています。部屋の中で使うものはお座敷すだれ、窓の外で日陰を落とすものは外掛(そとが)けすだれと呼びます。
すだれが家にかけられると爽やかな風とともに夏の訪れが感じられます。