今年度は、優しく時には厳しい自然と上手に付き合いながら日々の暮らしを楽しみ、四季の移ろいを愛で、慈しんできた日本の文 化をご覧いただきます。
今回は水と過ごす暮らしの風景を彩る道具をご紹介いたします。 流れる音、姿、水面に映り込む風景までも趣あるものとして楽しむ日本の細やかな心に展示品を通じて触れていただければ幸いです。
千葉県では醤油の町、野田を中心に樽(たる)作りが盛んに行われてきました。木製の器は、紫外線を通さず、気温の急激な変化も吸収するため食品加工の際に多用されています。醤油樽の製造で培われた技術を活かして手桶、たらいといった他の桶製品も作られています。木の板を水ももらさぬ程ぴったりと合わせ固定する技術は、長年の経験と技がなければ出来ません。
木の手桶を使って打ち水をする風景は道行く人々に涼しく、そして柔らかな風を届けてくれます。
室町時代に中国から伝来し、江戸時代に広まった金魚。幕末ともなると養殖技術も高まり、庶民の家にも金魚鉢が並ぶようになりました。風鈴のように丸いガラスをひもで軒先に吊るして金魚を楽しむ金魚玉と呼ばれる器もありました。水の中を鮮やかな色の体を揺らしながら泳ぐ姿は涼しげで夏の風物詩として日本の風景へ溶け込んでいきました。
今回の展示品は千葉県・九十九里浜のガラス工房で制作された大型作品です。
一日中雨ともなると気分も晴れませんが、雨の中でも、思わず出かけたくなるような美しい傘が岐阜や京都など和紙の名産地を中心に今も作り続けられています。
紙に油をひいて乾燥させた後、一旦傘を閉じ、骨の外面に仕上げの漆を塗ります。その際、骨と骨の間から漆がはみ出して中の紙に付かないように塗る作業は職人の熟練した技のひとつです。
油の香りが残る和傘が奏でる雨音はどこか風情のある優しい響きを持っています。
寺社に詣でる時に参拝者が入口で罪や穢(けが)れを清めるために口や手をすすぐ水は手水(ちょうず)と呼ばれ、その水を湛えている場所を手水舎(ちょうずや)といいます。
茶の湯の広まりとともに一般家屋の縁先(えんさき)や庭に、鉢に水を溜めた手水鉢が登場します。手を洗うという実用面もありましたが、その手水に映り込む葉影や、風にそよぐ水面が風景を一層風情あるものにすることから、日本の庭には欠かせない演出物のひとつとして現代家屋にも取り入れられています。
屋根に落ちた雨水を地面に逃がすための樋(とい)。通常は機能を重視し、筒状の型が多いのですが、雨水も美しく楽しもうという心意気から「鎖樋」が作りだされました。
鎖樋は雨水を筒の中に隠すのではなく、鎖の表面を伝わせて地面に導くように作られているので、水の流れる姿や音を楽しむことができます。また、銅で作られているので、時が流れるにつれ変化していく色が味わいを深めていき、寺社では古くから伝わる美しい色の鎖樋を見ることができます。