今年度は、「素材を生かす知恵」に焦点をあてて、日本の道具を形づくる素材のもつ魅力、特性をご紹介しています。
今回は一本の糸から始まり、糸と糸を織り合わせることによって大きな一枚となった「布」の世界をご覧いただきます。
伝統の技で布に新しい形を与え、その姿を楽しみ、慈しんできた日本の文化を、展示品を通じてお楽しみいただければ幸いです。
お正月に、羽子板で羽根をつく子どもたちの姿は少なくなりました。元は、羽根を蚊を食べるとんぼに見立て、夏に蚊に食われないよう縁起担ぎに羽根つきをしたと言われています。
布を台紙に巻きつけ、立体感を出した部品を細長い板の上で組み合わせ、一つの絵に仕上げていく押絵羽子板。布の持つ質感を生かしつつ、平面と立体の狭間で美しさを作り上げていく押絵独特の芸術です。
年も新たになり、春を迎える柱飾り、訶梨勒。元来<訶梨勒>とは、鑑真和上(がんじんわじょう)がもたらしたとされている薬用の実の名前でした。今でもその実は存在するのですが、非常に稀少でなかなか入手することができません。
薬として重用されていた訶梨勒は次第に病や厄から守ってくれるお守りとして、美しい布袋に実を入れ、飾られるようになります。そして訶梨勒の実が入手困難の現代では香袋を収め、新春に柱へ飾られています。
小さな飾りがたくさん吊るされている雛飾り。これは江戸時代に雛人形を買うことができる裕福な家はまだ少なく、雛人形の代わりに小さな布を集め、娘の節句のために家族が作ったことが始まりと言われています。
ひとつひとつの飾りには意味があり、家族の願いが込められています。展示品は縁起の良い「七宝まり」、神様のお使いと言われている「うさぎ」、女の子を病気や災難から守る「桃の花」がたくさんあしらわれています。
羽二重(はぶたえ)と呼ばれる薄い絹の布に糊(のり)をつけ、少し固さを出した後、1.5~2.0センチ角に小さく切ります。その小さな布を一枚ずつピンセットを使ってつまみ、折り曲げます。この小さく折り曲げた布をいくつも重ね合わせて花や蝶などの形を作ると、美しいつまみ簪の完成です。
伝統的なつまみ簪の技を伝える職人も今では少なくなりました。しかし、千葉県市川市では、高度な伝統の技を持つ職人が今も新しい作品を作り続けています。
この小さな布の世界に日本の粋を見ることができます。
今回の展示作品は「金運狛犬(きんうんこまいぬ)」というもので、左下に<金(きん)>の文字、大きな狛犬は口を閉じている<云(うん)>の狛犬、そして上に描かれている将棋の駒(こま)に戌(いぬ)の文字で<駒+戌>。合わせて「金運狛犬」を意味するお目出度い絵柄になっています。
このように絵の組み合わせで言葉を表す洒落(しゃれ)は古くから伝えられている手拭いの絵柄によく見ることができます。