今年度は、「素材を生かす知恵」に焦点をあてて、日本の道具を 形づくる素材のもつ魅力、特性をご紹介しています。
今回は「木」を使い、職人の高い技によって生み出された品々をご覧いただきます。自然のぬくもりを感じさせる木の質感に加え、職人の手が入ることにより、出来上がった作品に命が吹き込まれ ます。ひとつひとつの作品がもつ伝統技術と歴史は、日本に長く 愛されている木ならではのものです。展示品を通じ、ぬくもりと 伝統をみなさまにお伝えできれば幸いです。
日本の代表的伝統芸能のひとつに能があります。豪華な衣装とともに舞台の上で大きな存在感を発揮しているのが能面です。
材料には主に檜を用います。また、面を削りだすことを特に「面を打つ」と呼びます。能面師の想いがこめられて打たれた面は、一見、何の感情の動きも無いような顔の面も、舞台の上にあがり舞が始まると、喜び、悲しみ、怒りなどさまざまな感情がその表情に表れる、日本ならではの繊細な美の世界です。
木地玩具は、木を轆轤(ろくろ)を使って削りだして作る玩具をさします。轆轤で回転している原木を削るため、形はすべて丸みを帯び、とても温かみのある仕上がりを見せます。
千葉県は日本でも数少ない上質の木地玩具を制作する職人がいることで知られています。今回は、いろいろな形状の独楽(こま)を組み合わせ、お雛様に仕立てた作品を展示しています。お内裏様もお雛様も実際回すことができる独楽でできています。
深い山々に囲まれた熊本県、人吉球磨(ひとよしくま)地方は、銘木の名産地として知られています。そしてその加工技術は非常に優れ、家具や木製工芸品は全国でも高い評価を得ています。その中でも郷土玩具の花手箱は美しい椿の絵が印象的です。時を遡ること約820年、源氏と平氏が雌雄を決した源平合戦に破れた平家の落人たちが、熊本県の人吉へ住み着き、都の雅を懐かしんで花を美しく描いた箱を作り始めたものが花手箱の始まりといわれています。
長い間親しまれてきた下駄にはいろいろな種類が誕生しました。歯が高い高下駄。表に畳を打ち付けた吾妻(あずま)下駄。魚河岸で生まれた、鼻緒が革の小田原下駄。それぞれ用途に応じた工夫や、足元の粋を演出するための装飾が施されています。
軽くて歩きやすい桐下駄は高級品として人気を集めました。履いた時に見える部分だけではなく、表にも彫刻など凝った装飾を施した展示品のような趣向品的な下駄も登場しました。
三角や四角の細い柱状に切り出した異なる色の木を、何本も組み合わせ1つの束にして固めます。するとその断面は美しい幾何学模様を描きます。薄く切った断面を木箱などに貼り付けて装飾したものが寄木細工です。
展示品は組み合わせた木材を薄く切らず、そのまま形を刳(く)りだした逸品です。器の中面にも模様が続き木の色の美しさに圧倒されます。箱根駅伝の往路優勝チームにこの寄木細工で作られたトロフィーが毎年贈られています。