今年度は、「素材を生かす知恵」に焦点をあてて、日本の道具を形づくる素材のもつ魅力、特性をご紹介します。
今回は、日本の伝統的素材ともいえる「紙」をご紹介します。
「日本文化は木と紙の文化」と言われるほど、紙は私たちの生活にとって欠かせないものとなっています。紙のもつ多彩な表情を展示品を通じてお楽しみいただければ幸いです。
しなやかに描き出された曲線と、張りのある直線が織り成す、繊細な線と空間の芸術が水引細工です。
幅1.5センチの細長い帯状の和紙を縒りあげて細い紐状にした後、硬さをだすために糊をつけ、表面を固めます。20m程もある紙紐を糊のついた布で挟み、一気に端から端まで布を引いて糊を全体につけます。「水引」という名前は、水で紙を引き締めたから、また、この糊をつけて布を引く姿からきているとも言われています。
今回の展示品は特に通常の水引に、細い絹糸が巻かれている色の美しい絹巻水引と呼ばれるものを使用しています。
型の上に、和紙を幾重にも重ね、のりで固めていきます。何日か乾燥させた後、型をそっとはずし、もう一度ニカワを上塗りし、再度乾燥。最後に彩色を施して張子の完成です。
展示しているお面は千葉県の伝統的工芸品にも指定されている佐原張子の作品です。明治時代に始まったとされている佐原張子ですがその製法は張子職人の手によって変わらず守り続けられています。平成11年にはうさぎの佐原張子が年賀郵便切手の絵柄にも採用されました。
自然素材と手作りの温かみを感じさせる張子玩具は、今の時代に必要とされているものではとあらためて見直されています。
鯉のぼりといえば、布のものが一般的ですが、和紙の里、美濃(岐阜)では和紙で作られた「のぼり鯉」が元気に空を泳いでいます。
江戸時代に油紙を作っていた小原屋が、屋外に飾ることができる和紙製鯉のぼりを始めました。現在は第12代小原屋勢兵衛さんが受け継ぎ、「のぼり鯉」として今に伝えています。
美濃和紙に水を引き、手もみを繰り返し、紙を鍛え、さらに職人の秘密技術を加えて雨にも耐える和紙を作りあげます。鯉の形に切り、「生き生きとした鯉の表情を出すことが大事。」と、一筆ずつ勢いよく岩絵の具で色がつけられ、美濃和紙「のぼり鯉」が誕生します。
神社で神官が祭事の際に履いているのが「浅沓」です。一見、木をくりぬいて漆を塗ったような頑強な作りに見えますが、実は底と中敷をのぞいた部分は和紙でできています。木型に和紙を貼り付け、形を作り、漆を繰り返し何度も塗ってツヤと硬さをだしていきます。すべての作業が手作業のため、熟練した職人の腕をもってしても一足仕上げるまでに1ヵ月かかるといいます。
今では樹脂製の浅沓も多くなり、この和紙と漆だけで浅沓を作る職人は全国でも数人となってしまいました。本展示品は、伊勢神宮に納められている沓と同様の昔ながらの和紙を使った製法で作られています。
竹と和紙でできている、少しおどけた表情をした金魚のちょうちんは山口県柳井市で作られています。八月の金魚ちょうちん祭りともなると柳井市中に金魚ちょうちんが一斉に軒先につるされ、夜にはその灯りが幻想的な風景をつくりだしています。
始まりは江戸時代と言われています。柳井の商人が、こどもたちのために金魚の形をしたちょうちんを作り、柳井名産の伝統織物、柳井縞(やないじま)の染料を用いて赤い色をつけました。その後、郷土玩具としても全国で広く知られるようになり、現在は季節を問わず製造されています。店ごとに金魚の顔に特徴があり、自分のお気に入りの顔を選ぶことができます。