輪島塗×石川県
起源:室町時代
場所:石川県輪島市
<ものと場所の繋がり>
能登半島の豊かな森は材料となる木々や漆を育て、気候は漆の乾燥に適しています。能登半島の土の大半を占める珪藻土(けいそうど)※1は輪島塗の下地にも使われています。
輪島塗は、最古の作が室町時代とされていますが、現在の技法は江戸時代から伝わるもので、重要無形文化財に指定されています。他の漆器にない丈夫な作りは、破損しやすい部分に「布着(ぬのき)せ」という漆(うるし)を染みこませた布を貼り、「地の粉(じのこ)」と呼ばれる珪藻土(けいそうど)※1を下地に塗り重ねることで生まれます。数多くの工程が手作業で行われ、いくつかに分業化することで個々の技術が向上してきたのです。この分業化された工程のすべてを統括するのが塗師屋(ぬしや)※2です。その塗師屋も江戸時代では全国を回って、新しい文化や教養を学び、輪島塗に活かす研究を重ね、そして優美なものに高めていったのです。展示品は曽我路幸(そがみちゆき)氏作、蒔絵(まきえ)※3の輪島塗です。秋の味覚を色づく紅葉の椀でいただく、深まる季節を感じます。
波佐見焼×長崎県
起源:慶長4年
場所:長崎県波佐見町
<ものと場所の繋がり>
波佐見焼は、古くから庶民の器として浸透してきました。現在も長崎県波佐見町内の多くの人々が窯業の仕事に就き、全国の食器の約13%を生産しています。最近ではモダンなデザインのものが注目を集めています。
波佐見焼は、長崎県波佐見町で安土桃山時代の末期から江戸時代の初期にかけて作られ始めました。磁器といえば当時は高級品で庶民にとっては高嶺の花でしたが、「くらわんか碗」の登場により、庶民が手軽に磁器を使えるようになりました。この名前の由来は、江戸時代、大阪-京都間の交通である淀川を往来する船に、「餅くらわんか、酒くらわんか」と小舟から声を掛けながら売った商人の言葉からきています。巨大な窯で一度に大量に焼きあげ、簡単な絵付にしたことで、手ごろな値段で庶民に広く受け入れられました。丈夫で壊れにくく素朴なデザインが波佐見焼の特徴です。展示品は波佐見町に窯を持つマルヒロ(馬場商店)の蕎麦猪口(そばちょこ)です。旬の新そばを、様々な模様の蕎麦猪口でいただくことも、秋の楽しみです。
曲げわっぱ×秋田県
起源:不明
場所:秋田県大館市
<ものと場所の繋がり>
大館曲げわっぱは、秋田県大館の天然秋田杉から作られます。大館市は、世界遺産白神山地に属している県の北部と青森県との県境に位置し、天然秋田杉は、細かい年輪と柔軟性、強度をもち日本三大美林※のひとつとされています。
大館曲げわっぱの制作は、江戸時代、大館藩主により奨励され盛んになりました。その後、新潟や関東、京都へも流通し、その技術は今に伝わっています。天然秋田杉を薄く剥ぎ、曲げる加工は、均一な厚さになるよう両端をそれぞれ薄くする工程が大変難しく、出来栄えを左右する大切な技術です。柔軟性と強度を持つ天然秋田杉は、日本三大美林※のひとつとされています。近年、天然杉が減少し、伐採が禁止されました。そこで職人、組合と秋田県立大学が加工の難しい造林杉(ぞうりんすぎ)を材料に使えるよう共同研究を進めています。展示品は、「柴田慶信(しばたよしのぶ)商店」制作の天然秋田杉のお櫃(ひつ)です。ご飯の水分を、杉の白木が吸収することで、カビがつきにくく、殺菌性もあり、常温でも翌朝まで美味しさを保つことができます。
備前焼×岡山県
起源:平安時代
場所:岡山県備前市
<ものと場所の繋がり>
備前焼に使われる粘土は、岡山県備前市伊部(いんべ)の地から採取されます。「ひよせ」と呼ばれる田んぼの耕作土の直下の粘土で、アルカリ分が強く、その土と炎が焼成中に千変万化の窯変(ようへん)※をもたらします。
備前焼は平安時代に始まり、室町時代に“侘び”“寂び”を好む茶人に重用され、茶道とともに発展しました。「投げても割れぬ、備前すり鉢」といわれる強度をもつ備前焼。岡山県備前の土は耐火度が低いという性質をもつため、じっくりと約2週間前後の時間をかけて焼きあげ、その強さをつくります。高温でガラス質の皮膜を作る釉薬(ゆうやく)※1を使わないことで、内部に微細な気孔ができ通気性が生まれ、酒やワインを美味しくしてくれます。また、花器ではきれいな水の状態が長時間保たれるため、花が長持ちするのです。展示品は、竹内靖之(たけうちやすゆき)氏作の土瓶です。緋襷(ひだすき)というワラを間にはさんだり巻いたりして焼くことで、緋色(ひいろ)の線が現れたものです。「盃にとくとく鳴りて土瓶蒸」と阿波野青畝(あわのせいほ)※2は詠みました。秋を感じる色と香りを楽しみながら土瓶蒸しを味わいたいものです。
ガラス×千葉県
起源:昭和36年
場所:千葉県九十九里町
<ものと場所の繋がり>
九十九里に工房を構えるスガハラ(菅原工芸硝子)。海近く、緑豊かな九十九里の地は、高いデザイン性を生み出し、毎年新たなデザイン製品を数多く誕生させます。
日本におけるガラス文化は、室町時代にガラス器、眼鏡といったガラス製品が作られるようになったことが始まりといわれています。明治時代以前、ガラスを指す言葉として「瑠璃(るり)」、「ビードロ」、「ギヤマン」が使われていましたが、明治以降、オランダ語が語源の「ガラス」に統一されました。展示品はスガハラ(菅原工芸硝子)と人気アパレルブランド「ミナペルホネン」とのコラボにより作られたグラスです。同ブランドのデザイナー皆川明氏が、千葉県の特産品である落花生をモチーフに、美しいフォルムを表現しました。スガハラでは、こうした新たな取り組みも行い、職人の技術向上へと繋げています。
秋が旬である落花生、11月11日のピーナッツの日には、落花生のグラスで色づく秋を楽しみたいものです。