旬のものを重ねた俳句「目には青葉 山ほととぎす 初がつお」。他に語る言葉は無くても、冬が終わり、自然が一斉に動き出す春の力を体全体で感じ、喜ぶ気持ちがよく伝わってきます。
春の草花の勢いには驚かされます。つくしが顔を出したと思えば、いつの間にかスギナに早変わり。よもぎの芽が出始めたから草もちでもと思っているうちに若芽を摘みそこなったり。春の息吹があふれる野山へ自然の力をもらいに足を運んでみませんか。
外で春を楽しむならば、昔ながらの竹製の弁当箱と、簡単に抹茶が楽しめる茶箱を片手にお出かけ。宴会がある時には、瓶を手拭いで粋に包んで片手にぶら下げ、盛り上げ役の変わり盃を用意すれば、友人との語らいにも一層花が咲きます。
家でゆっくりと過ごすひと時には器もひとひねり。春の食材を葉っぱのようなお皿で楽しんでみてはいかがでしょうか。
拭(ぬぐ)う、被(かぶ)る、包む、使い方自由自在の布、手拭い。鎌倉時代あたりから日本人の暮らしにお目見えしていたと言われていますが、綿花(めんか)の栽培が安定してきた江戸時代から全国的に庶民の生活に深く浸透しました。
手拭いの端が切りっぱなしになっているのは、好みや用途によって切り売りされていたため。それと同時に、切りっぱなしの方が乾きが早く、縫って端に折り返しを作るとすぐ汚れてしまうので、あえて縫わないという合理的な視点による工夫なのです。
竹製弁当箱の一番の利点は通気性です。保冷剤などの補助材がまだ無かった時代に通気性はとても重要でした。
展示品の弁当箱は特殊な竹「虎斑竹(とらふだけ)」です。高知県須崎市にしか成育しない竹で、火であぶると竹自身から油が出てきて、その油を拭くと茶色のまだらの模様が浮き上がります。このような模様ができる竹はこの地域のものだけで、現在も他の地域に移植をしても成育せず、その特性はいまだ謎とされています。
お花見、歓迎会…春は人が集う宴(うたげ)の季節。そこで活躍する盃(さかずき)にはいろいろな趣向を凝らしたものがあります。
馬の上でも飲めるように盃の下の高台(こうだい)が長くなった「馬上盃(ばじょうはい)」。宴会が盛り上がる仕掛け盃「独楽(こま)ぐい飲み」は酒を飲み干さないと下に置けないように底がとがっています。酒を注ぐたび、飲むたびにピーと鳥の声がする「うぐいす徳利」と「うぐいす盃」。
まだまだ沢山飲まないといけないようです。
茶箱(ちゃばこ)は、点前道具(てまえどうぐ)一式を入れて持ち運ぶための箱で、旅行や野点(のだて)などの際に用いられます。中には、茶碗、茶筅(ちゃせん)、棗(なつめ)などお茶を点(た)てるための道具がきれいに収められています。
千利休の時代からあったといわれている茶箱ですが、現代ではちょっとしたピクニックセットのようです。ドライブの際に座席の片隅に積んで、緑がきれいな場所に車をとめて本格的に抹茶をいただくというのも、粋な楽しみです。
青々とした葉がそのまま器になったような作品は、千葉県館山市に工房を構える陶芸作家、内山(うちやま)朋子(ともこ)さんの作品です。「森や海で拾った物のような器」をテーマに作品を作り続けています。今回展示している作品は葉皿で、キボウシの葉をイメージしています。幅広で濃い緑の釉(うわぐすり)がかけられた器は、まさに森からの贈り物のような姿です。
食卓に置くだけで春がひとひら舞い降りたような楽しい器です。